コラム
メディカルアフェアーズの最新情報を更新していきます。
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MSLの職種としての将来性
2023.03.17 (Fri)MSLの職種としての将来性
国内では2010年ごろから、製薬企業のメディカルアフェアーズ部の中にMSLが本格的に組織されはじめ、当社の試算では2023年3月現在までに約2300人のMSLが国内で活動していると思われます。 日本製薬工業協会においても、2019年4月1日付で「メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方」が、2022年7月には「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」がリリースされました。 このようにMSLの業務は業界でもかなり注目されてきており、今後も人数や役割が拡大していくようにもみえます。 一方で、製薬企業がカバーする疾患領域は、プライマリーケアからスペシャリティケアに移行してきており、多くの医療従事者を対象とするのではなく、少数の専門医が対象となってくるでしょう。MSLについては、さらに、その中でもThought Leaderが対象となってくるのでMSLの絶対数は今後も大きく増えていくようなことはないと考えています。 今回はコラムですので、あくまでも個人的な考えとなりますが、下記のような傾向になってくると思っています。 MSLの絶対数はそれほど増えていかない MSLの役割は拡大していく MSLの質が大きく問われるようになっていく この中でも特に3.が重要なのではないかと思います。 当社では多くのメディカルアフェアーズ部に対するコンサルティングを行ってきましたので、その経験から申し上げますと、MSLの方が持っている資格や経験に対するrequirementは今後も益々高まってくると思われます。つまり、医療系資格(医師、薬剤師、看護師の有資格者)を持ち、大学院(修士以上、博士号を持っていればなお良い)修了者、さらには、製薬企業でのメディカルアフェアーズや関連部門での経験、ある領域での専門性や経験、コミュニケーション力、ビジネス的な洞察力、英語力(特にビジネス英語)が備わっている人が理想となります。 メディカルアフェアーズが組織され始めた際には、博士号を持っていることが重要とのことでしたが、現在では、それだけでは不足しており、ビジネスマンとしての質の高さやバランス感覚が求められているといっても良いでしょう。したがって、現在の自分に満足することなく、常に前向きに勉強をしていく姿勢が重要です。その勉強も会社から提供される研修だけではなく、自ら各種学校やセミナーへ足を運んだり、大学院などで勉強をしていくことが必要でしょう。 また、個人的にかなり気がかりなのは、疾患の専門性ですね。これに関しては、いくつも専門性を持つことは実際には不可能ですので、せいぜい一つか二つになるかと思います。その専門性が所属する製薬企業で永続的に必要とはされることはまずないでしょう。製薬企業の持つパイプラインで自分の得意とする領域の製品がなければ、転職という道を選ばなくてはならないこともあるかと思います。そのため、「安定」を強く望む方には厳しい世界になるかもしれません。一方で、常に勉強をし続け、サバイバルで生き抜くことへのやりがいを感じている方であればこんなに楽しいことはないかもしれませんね。 少し無責任な言い方に聞こえるかもしれませんが、私はこのメディカルアフェアーズという仕事は非常に魅力的だと思っています。Patient Centricityを前面に掲げながら、アンメットニーズの解決に挑む、大変素晴らしい仕事だと思います。 当社ではメディカルアフェアーズを体系的に学ぶことのできる「MAアカデミー」を運営しております。製薬企業で勤務されている方に限らず、異業種、大学生、大学院生など、もし、ご興味のある方はぜひとも当社にお問合せいただければと思います。 お問い合わせ -
MA/MSLのソフトスキル教育はどのように企画すれば良いの?
2023.02.09 (Thu)MA/MSLのソフトスキル教育はどのように企画すれば良いの?
製薬協 医薬品評価委員会MA部会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」ⅰ)によりますと、「ソフトスキル」とは「コミュニケーション力や協調性、自発性、リーダーシップなど、 目に見えない定性的なスキル」とされています。 私自身がヒアリングした製薬企業の中では、例えば「リーダーシップ」という教育の切り口だけでも、様々なニーズがありました。「MSLのリーダーシップとは、社会規範を遵守するだけでなく、自らの倫理観も明確にして行動できること」という企業もあれば、「MSLのリーダーシップとは、チームの中にいるメンバー一人ひとりが個性を発揮すること」という企業もありました。ソフトスキルの研修そのものに「正解がない」からこそ、各社で実情に照らして深く考え、どのように研修プログラムとして実現できるかについて試行錯誤している様子が垣間見えました。 そのような中で、以下の三つの点について留意しておくと、ソフトスキルの研修企画が一歩ずつ前進するのではないかと考えています。 -
MA/MSLの教育体系の現状
2023.01.25 (Wed)MA/MSLの教育体系の現状
製薬業界に携わる前、複数の業界と関わった中での経験ではありますが、製薬業界におけるMA/MSL部門の教育体系は、目指す姿が共通認識され、まさにこれから企画・整備に向かっている段階ではないかと受け止めています。これまで接点を持った製薬企業数社では、専門的な知識やスキルに関する研修を取り入れたいとのお話しをいただき、いち早く、MA/MSLの機能を確立したいとの想いが強く伝わりました。 そのような中で、専門的な知識のインプットやスキル習得と共に、気づきや感性を体験から養うソフトスキルの教育プログラムを取り入れようとのお声がけは現時点でまだ少なく、これから徐々にお聞きするのではないかと推察しています。 例えば、自分や相手について考え方や感情面まで深く理解できるような「コミュニケーション」を体験的に学ぶ教育プログラム。自らの価値観とスキルに強い確信が持て、どのような志を大事にするかの「自発性」マインドを育てる教育プログラム。そして、プロジェクト管理のためのマネジメントだけでなく、状況に応じて人間同士が力を合わせると大きな成果を狙えるグループダイナミズムも体感できる「リーダーシップやマネジメント」のプログラムなど。一言で言えば継続的に人間力を育てるプログラムを取り入れたいとのお話はまだ少ない傾向にあります。 大前提となるビジョンや戦略、事業計画、そして現実的に起きている問題から切り離さずに教育プログラムは計画立案する事が望まれます。そのため、やはり専門的な知識やスキルの習得は優先せねばならないかもしれません。しかしながら、周知の通り、我々が生きているビジネスの世界はなかなか計画通りには進まず、常に軌道修正しなければ成功が難しくなっています。だからこそ、相手や状況に対する鋭い感受性や、速やかな意思決定ができる揺るがぬ価値基準、目標達成のために共感して巻き込む力、新しさを具現化する力など、ソフトスキルもきっと必要になることでしょう。 教育を通して目に見える効果を求める一方で、組織・部門が永続するために人間形成の部分も企業内教育の範囲としてどれだけ捉えられるのか、私自身、専門性と人間性の教育の両面で皆さまのお役に立ちたいと考えています。 当社の教育・研修に関してご相談やご質問等ございましたら、いつでもお気軽にご相談くださいませ。 お問い合わせ -
MSLはリモートで成り立つ?
2022.10.03 (Mon)MSLはリモートで成り立つ?
2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大により、MSLによる医師とのリモート面談は急速に増加しました。当初はリモート面談に慣れていなかったり、システムの整備がなされていなかったことなどもあり、導入に否定的な医師もみられました。しかしながら現在では学会や会議などにも積極的に活用されたことで、多くの医師がリモート面談を実施するようになりました。 MSLとしてもアポイント取得時に移動時間を考慮する必要がなく、移動の労力と経費がかからないため、非常に簡便で有用な面談ツールと言えます。医師の許容度やニーズが高まったことからも、現在ではリモート面談は医師とのコミュニケーションの中心的な役割を担っています。 一方で、リモート面談にはいくつか注意が必要な点もあります。 一点目は、相手の表情や雰囲気が画面越しでは読み取りにくい点です。対面の面談ですと、その表情や素振りから医師の気づきや熱意を感じ取ることができますし、怪訝な表情から懸念を読み取ることもできます。しかしリモート面談では画面上でこれらの些細な変化をキャッチできないことがあり、結果として深いインサイトの収集の機会を逃してしまうことがあります。 二点目は、医師の面談環境が把握しにくいことです。MSLの医師との面談は担当疾患や担当製品についてのサイエンティフィックなディスカッションが中心であり、場合によっては未承認薬剤の情報や適応外処方に関する情報に至ることがあります。このような情報は医師から質問があった場合にのみ提供することになり、当然ながら不特定多数の医師に提供すべき情報ではありません。リモート面談は対面の面談とは異なり、医師がいる画面の向こう側の環境を正確に把握することや調整することのハードルが高くなります。仮に医師側が個室ではなく大部屋にいる場合にはディスカッションの内容が他の医師に聞こえてしまう可能性もありますし、他社の社員に聞こえてしまう可能性も否定できません。このような状況は製薬企業のメディカル活動において大きなリスクになり得るので細心の注意が必要です。 とは言え、医師がMSLとの面談の意義やルールを理解しており、適正な環境下であればリモート面談は大変有用なツールとなることは間違いありませんので、今後も積極的に活用されると考えられます。 -
MSLって出張多い?いつも何やってるの?
2022.10.03 (Mon)MSLって出張多い?いつも何やってるの?
MSLの主たる業務は医師とのディスカッションを通じてインサイトを収集することです。収集されたインサイトはアンメットメディカルニーズの同定や、メディカル戦略の立案に大きな影響を与えるため、適切かつ質の高いインサイト収集が必要となります。 したがってMSLは担当疾患や担当製品に関連する論文・資料の検索や内容把握、クリニカルクエスチョンの設定などの事前準備を含めた、医師とのディスカッションにかかわる業務に多くの時間を費やすことになります。 新型コロナウイルス感染症の拡大以降、Webを通じたリモート形式の面談が増えてきましたが、医師が実際の診療や研究を行っている施設にMSLが直接赴き、顔を合わせて活発なディスカッションを交わすことは、より質の高いインサイトの収集に繋がります。面談対象となる医師は全国に存在しますので、面談のための出張の機会も当然多くなりますし、関連する国内外の学会に参加するために出張することもあります。出張先でゆっくり…というわけにはなかなかいきませんが、様々な医師や医療機関を肌で知ることに加え、全国各地の街の雰囲気を知ることができるのはMSLの醍醐味の一つかもしれません。 その他、製薬企業によってはMSLが臨床研究の立案や学会における疾患啓発セミナー、アドバイザリーボードミーティングなどのメディカルイベントをリードすることもあります。MSLは医師の診療や研究の情報を入手するための対外的な窓口となることに加え、メディカル活動に関わる多くのアクティビティに関与することができるため、メディカルアフェアーズの全体像を俯瞰的に把握することができる職種であると言えるのではないでしょうか。 -
MSLのコミュニケーションスキルとは
2022.10.03 (Mon)MSLのコミュニケーションスキルとは
私たちは、製薬企業のMSLを対象にした面談研修を提供しています。その蓄積されたデータから、いくつか見えてきたものがありますので、ここで一部を述べたいと思います。 そもそも論で恐縮ですが、スキル云々の前に、「MSLは何のために医師と面談するのか?」という目的意識が最重要であると感じます。MSLは、営業とは異なり、「自社製品を処方してもらうこと」が目指すところではありません。メディカルアフェアーズの一員として「アンメットメディカルニーズの充足」を目指しており、そのために医師に情報提供したり、意見交換をしたりしているわけです。効果的なコミュニケーションのためには、まず、MSL自身が「アンメットメディカルニーズ」について深く思考しているかどうかが問われるでしょう。 少しスキルの話をすると、「ギブアンドテイクを意識する」ことが重要でしょう。これは、もちろん金銭的な話でも労務的な話でもありません。単にインタビューのように一方的に聴取しても、医師からすれば真剣に答えなければならない義務はないですので、当たり障りのない返答で済まされてしまう恐れがあります。このような面談が続くと、医師からすれば得られるものが無いので、MSLとの面談に躊躇するかもしれません。MSLの上級者は、「情報を与えながら、引き出している」と感じます。すなわち、医師が興味を持つように情報を提供し、その反応をみながら、話を深堀りして、医師の考えを収集しています。 態度に関しては、「丁寧すぎない」ことが重要かと思います。相手への敬意を表すことに一生懸命で、議論が展開していかないようであれば、ちゃんと議論したい医師にとっては不満が募るでしょう。専門家として、医師を知的に刺激する存在である必要があります。 -
MSL(メディカルサイエンスリエゾン)の役割とその活動の重要性とは
2022.10.03 (Mon)MSL(メディカルサイエンスリエゾン)の役割とその活動の重要性とは
今回は、MSLの役割について書きたいと思います。 私たちは、MAアカデミーというメディカルアフェアーズに特化した教育プログラムを提供しております。そのプログラムの第一回のメディカルアフェアーズ(MA)概論の講義において、「MSLはMA部の中で具体的にどのような役割をしているのか?」という質問を受けることがあります。 その回答としては、大きく分けて下記の3つになります。 MA戦略プランの立案においてはThought Leader(TL)のファクト・インサイトが必要となる。そのファクト・インサイトを収集し、戦略立案チームに情報をフィードバックする MA戦略プランで決定されたアクティビティを実施する 当該疾患領域における医科学的情報を収集する メディカル戦略プランとは、MA部門が活動するためのいわば計画書であり、MAはこの戦略にしたがって活動しています。メディカル戦略プランは自社が同定したアンメットメディカルニーズ(UMN)の解決策が書かれ、具体的にどのような活動が実施されるのかが記載されています。「いつ、何を、どこで、だれが」ということが細かく記載されます。UMNは、顧客(医師及び患者)からのファクトやインサイト情報をもとに同定されます。これらファクトやインサイトをMSLが現場から収集するのです。 「では、MSLの業務は誰でもできそうですね?」ということを言う人がいますが、そんなに簡単ではありません。ファクトは事実に基づく情報ですので誰もが入手できる情報かもしれませんが、インサイトについては簡単にはいきません。インサイトとは人がなんとなく感じていることだけれどもうまく言葉にできないことを指します。下の図に示したように実は本音よりもさらに深い部分に存在するのです。このインサイトを収集するためには一筋縄ではいきません。MSLは当該疾患領域のオーソリティであるTLと直接話をしながらインサイトを収集しますが「話をしながら・・・」とは何も世間話ではありません。TLと疾患や様々なエビデンスの話題を中心に話をします。その中でインサイトを収集することになります。したがって、MSLは医科学的な知識や考え方を持っているだけでなく、非常に高いコミュニケーションスキル、人間関係構築力が必要とされるのです。 少し話を前に戻しますが、MA戦略プランはMSLが入手したファクトやインサイトをもとに立案されるわけですので、MA戦略プランの質は戦略担当者はもちろんですが、MSLが持ってきた情報に大きく左右されます。別の見方をすれば、MA戦略プランはMA部の活動の計画書でありながら、その戦略はMSL自身が決めているとも解釈できるのです。 このようにMSLがいかに重要な任務を担っているかがお分かりいただけたのではないかと思います。これからMSLを目指そうとされている方の参考になればと思います。 -
メディカルアフェアーズ部に所属して仕事をするには?
2022.10.03 (Mon)メディカルアフェアーズ部に所属して仕事をするには?
MAでは様々な業務が行われており、それぞれの業務に高い専門性を必要としています。特にMSL(メディカルサイエンスリエゾン)においては、社外医科学専門家(STL)との医学的・科学的な議論や学会活動等を通じて、UMN(アンメットメディカルニーズ)の解決に寄与、さらに高い倫理観が望まれます。こういった背景から日本製薬医学会では、MSLの資格要件として医学・薬学関連の大学教育を受けた者と提言していましたⅰ)。さらに2022年に日本製薬工業協会(製薬協)は、「MSLの目指すべき方向性」を発表し、その中でMSLの任命要件として、医療資格の保有(医師、歯科医師、薬剤師、看護師など)や、生命科学系の博士号の保有を推奨するとしましたⅱ)。これは、MSLが社外医科学専門家から真に信頼されるパートナーとして医学的・科学的な交流を行うにあたり、研究業績を挙げた経験を持つ科学者として博士であることがより望ましいと考えたと説明されています。 こういったハード面での要件の他に、高度な専門知識、 科学的中立思考、高い倫理観、科学的議論ができるコミュニケーションスキル、ビジネスに対する洞察力、自己研鑽への意欲などのソフトスキルも必要となってきます。