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メディカルアフェアーズとは

メディカルアフェアーズは50年以上前から存在していた

欧米の製薬業界では、実に50年以上前から存在する部門です。我々がコンサルティングをしていると、「メディカルアフェアーズ部はまだ新しい組織ですよね?」と質問を受けることがあるのですが、決してそうではありません。日本国内においても、大手の外資系製薬企業には数十年前からすでに存在しています。しかしながら、当時のリソースはかなり限定的で、グローバル本社と連携して日本において臨床研究を実施する際に、研究プロトコールの作成や臨床研究実施において研究責任者となる医師への折衝などその役割は限られていました。

日本国内でのMSL数は2,000人に到達している

ではなぜ、近年になりメディカルアフェアーズが着目されているのでしょうか。
以前は限定的であったリソースが、現在では数十名、企業によっては100名を超えるなどリソースを強化してきています。これは、メディカルアフェアーズ部の中にメディカルサイエンスリエゾン(MSL)という職種を増員させてきたことに起因しています。私たちの調査では、現在、MSLは日本全国で約2,000人に到達しています(図1)。

メディカルアフェアーズ部門の活動が活発化したのはあの事件が関係している?

なぜ、MSLを増員することになったのでしょうか。
その理由は大きく分けて二つあると考えています。一つは、グローバル企業が、製薬業界の社会的貢献性を明示していく流れにある中で、日本もその方針に従うことは必然性であったことが言えるのではないかと思います。二つ目に、記憶にある方もいらっしゃるかと思いますが、ある製薬企業による、臨床データ改ざん事件i)が影響しているものと考えられます。高血圧治療薬である同社の製品の医師主導臨床研究に、同社の統計学者が関与し、データを改ざんしたとされる事件です。この発表した論文のデータには問題があったとして一連の論文が撤回されたのです。この事件は、製薬企業と医療従事者との利益相反がその問題の背景にあったと考えられ、業界を揺るがす大きな問題へと発展しました。この事件をきっかけに、臨床研究の実施やそこに至るまでの医師とのコミュニケーションに関わる部門は、マーケティングなどのコマーシャル部門と切り離されている必要があるとし、メディカルアフェアーズ部の組織が急激に強化されてきたのです。特に、製品の売上には直接関与しないMSLという人員を配置し、医師と疾患領域に関わる高度なサイエンティフィックコミュニケーションを行うことができるMSLの増員が期待されてきたのです。MSLはこのような目的で業務を行うので、医学や薬学のバックグラウンドを持つものがそれを担うに適切であると考えられ、そのような人材を配置することが業界的に推奨されていますii)
以上のような経緯から、これまでは外資系企業においてのみ組織されていると思われた部門でしたが、最近では国内製薬企業においてもメディカルアフェアーズ部や育薬部などといった名前の部門が組織されるようになりました。

メディカルアフェーズの目的とは

次に、メディカルアフェアーズという組織が、具体的にどのようなことを目的としている部門なのかを考えてみましょう。「製品の売上獲得を直接の目的としていない」という枕詞が必ずといって付いてくる組織なのですが、本当に売上獲得を意識していないのでしょうか?メディカルアフェアーズの目的と活動は大きく考えると下記のような流れになります。
1.関連疾患におけるアンメットメディカルニーズ(UMN)の把握
2.解決方法の立案
3.解決のための実際の活動

アンメットメディカルニーズとは

UMNの把握については、MSLがその重要な役割を果たします。担当する疾患領域のキーオピニオンリーダー(KOL)iii)といわれる医師とコミュニケーションを行い、現在、当該疾患領域において、課題となっていることを入手します。ファクトやインサイト(コラム記事で詳しく紹介します)といったものがそれに相当します。これらの情報をもとにアンメットメディカルニーズを同定します。この際、注意しなくてはならないのは、製薬企業にとって顧客とは、医師だけでなく、患者さんであるので、患者さんからの様々な情報を入手することは非常に重要です。この情報の入手方法についてもコラムで紹介いたします。このように得られた情報からUMNを同定し、その解決に取り掛かるといった流れとなります(図2)。

メディカル戦略プランは、メディカル活動の根幹となっている

この一連の流れを図式化したものがメディカル戦略プランと呼ばれるものになります。多くのUMNの解決には、臨床研究の実施が用いられるので、研究のプランニングにはメディカルアフェアーズがその大きな役割を果たします。つまり、MSLは情報の収集に努め、内勤のメディカルアフェアーズスタッフが戦略を作り、臨床研究を実施するといった一連の流れが一般的です。企業によっては、MSLと内勤スタッフが兼任しているというケースもあります。

メディカルアフェアーズ部門は中長期的な財務上の利益獲得を目的としている

さて、先ほど、メディカルアフェアーズは売上獲得を直接の目的とはしていないと申し上げましたが、確かにそれは正解なのですが、もう少し具体的に申し上げると「短期的な売上利益獲得を目指していないが、中長期的な売上利益獲得を目指している部門」と申し上げたほうが正しいと思います。この考え方についてもコラムにて詳細に触れたいと思いますのでぜひご期待ください。
シミック・イニジオ株式会社
執行役員 メディカルアフェアーズカンパニー カンパニー長
 田中 弘之
i)朝日新聞, 2016. トップニュース. [オンライン]
(http://www.asahi.com/articles/DA3S12676631.html, 2020年12月20日最終確認)
ii)日本製薬医学会「MSL認定制度第三者認証事業」
(https://japhmed.jp/msl/msl.html, 2020年12月20日最終確認)
iii)KOLのほか、STL(Scientific Thought Leader)、KEE(Key External Expert)などと呼ばれることもある