メディカルアフェアーズ部に所属して仕事をするには?
メディカルアフェアーズ(MAあるいはMAF)は、より高い専門的知識と論理的な思考力をもって、患者やその家族あるいは医療現場のニーズを充足するための組織として、製薬企業内に整備されてきました。今回はMA部門に所属して仕事をするには何が必要か考えてみたいと思います。
MSLとして働くための要件
MAでは様々な業務が行われており、それぞれの業務に高い専門性を必要としています。特にMSL(メディカルサイエンスリエゾン)においては、社外医科学専門家(STL)との医学的・科学的な議論や学会活動等を通じて、UMN(アンメットメディカルニーズ)の解決に寄与、さらに高い倫理観が望まれます。こういった背景から日本製薬医学会では、MSLの資格要件として医学・薬学関連の大学教育を受けた者と提言していましたⅰ)。さらに2022年に日本製薬工業協会(製薬協)は、「MSLの目指すべき方向性」を発表し、その中でMSLの任命要件として、医療資格の保有(医師、歯科医師、薬剤師、看護師など)や、生命科学系の博士号の保有を推奨するとしましたⅱ)。これは、MSLが社外医科学専門家から真に信頼されるパートナーとして医学的・科学的な交流を行うにあたり、研究業績を挙げた経験を持つ科学者として博士であることがより望ましいと考えたと説明されています。
こういったハード面での要件の他に、高度な専門知識、 科学的中立思考、高い倫理観、科学的議論ができるコミュニケーションスキル、ビジネスに対する洞察力、自己研鑽への意欲などのソフトスキルも必要となってきます。
MAで働くためには
MSLの他にもMAの業務は多岐にわたっています。これらは製薬企業によって様々ですが、メディカルプランの作成及び運用を担う部署、MAが主導する臨床試験の企画・管理を担う部署、MAが主導するイベントを計画・実施するメディカルエデュケーション、MA関連の資材の作成・レビュー担当、患者や医療従事者、MRからの問い合わせ対応などのメディカルインフォメーションなど様々な業務があります。これらの業務に従事する上でも、MSLと同様に高度な専門知識、 科学的中立思考、高い倫理観、科学的議論ができるコミュニケーションスキルなどが重要です。しかしながら、MAで働くために最も大切なことは、患者さんやその家族のために何をすべきか(ペイシェント・セントリック)という考えを常に持ち続けることになると思います。そして、それらの活動が会社に対して中長期的な観点でどれだけの価値(利益)を生み出すものかという視点で判断をしていく事も重要となります。MA活動は企業活動であり、ボランティアや社会貢献活動とは異なります。短期的な経済的利益とはならなくても、中長期的に会社に対して価値(利益)を提供するものである必要があります。また、企業にとって価値(利益)があるからこそ、持続的な活動に繋がっていくのだと思います。こういった視点を持っておくことがMAで働く上では重要だと考えます。
最後に
現在、新卒採用者がMAに配属される会社はあまりなく、多くの場合が、社内異動あるいは中途採用での配属です。上述した任命要件等を踏まえると、今後も誰もが簡単にMAに所属して仕事をすることが叶うものではないかもしれません。さらに、MA活動も開発段階から市販後とプロダクトライフサイクルに合わせて様々に変化していくことから、柔軟な対応が必要であり、様々な経験も重要となってきます。社内研修の充実など、これらをサポートする体制を整えている企業もありますが、英語など語学を含めた積極的な自己研鑽も必須となります。
製薬企業の社員は、医療関係者として患者さんやその家族、ひいては国民、人類の健康の一翼を担う存在です。そしてその中でMAは、製品あるいは疾患領域の医科学的専門家として、高い知識と倫理観のもと、活動をしていく事になります。まずは、MA部門(部署)で働けることに誇りを持てるマインドが大切なのだと思います。
i) MSL提⾔ 中間報告, 2016年⽇本製薬医学会(JAPhMed)年次会, 2016年, https://japhmed.jp/MSL%E6%8F%90%E8%A8%80_Interim%20Presentation_1_July_2016%E2%98%86%E2%98%86.pdf
ii) メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性, 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会MA部会, 2022 年, https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/gbkspa0000000sa4-att/MA_202207_msl.pdf