メディカルエデュケーションって何?
国内外の製薬企業の中には、メディカルアフェアーズ部の中にメディカルエデュケーション(ME)というチームを設けている企業があります。私の記憶では国内では外資系製薬企業2社に存在していたと思います(2022年10月現在)。
もともと欧米では、医療従事者の継続教育のために、製薬企業がその一部分を支援することが大きな役割の一つであったと思われます。実際、私は海外で製薬企業のメディカルエデュケーションの活動を見たことがあるのですが、非常に幅広い活動をしていました。具体的には、現場で教育のニーズを探り、そのニーズに対して製薬企業としての強みが活かせるのであれば実際にマテリアルの作成から教育プログラムの企画・運営までしていました。また、教育プログラムの参加者に対してはNPS(Net Promoter Score)を含めた緻密なアンケートを取り、常にレベルの高い教育ができるように改善を重ね、活動の質の向上に努めていました。そのほか、学会のブースの設置や対応、デジタルコンテンツの作成なども行っていました。もちろん、コンテンツについては常に公平性を担保(エビデンスをもとに資料を作成する。意図的に自社製品の宣伝になるようなストーリーにしない。)していたと思います。
国内における製薬企業のMEについてはどうでしょうか。いわゆる内資系製薬企業にはこのような部門はまだ存在していないのではないかと思います。外資系企業においてはME部を設置し活動している企業があります。具体的には、メディカルマテリアルの作成、学会のブース企画・運営、アドバイザリーボードミーティングの企画、学会シンポジウムの企画などが主な業務となります。
MEを国内導入したころは、「私たちの業務は医師への教育です」という言葉を医師に対して使い、医師からは「製薬会社が私に何を教育してくれるんだい?」と叱られてしまうようなことがたびたびあったようです。そのほか、「活動の公平性を担保することに企業としてどのような意味があるのか?」などコマーシャル部門からはなかなか理解が得られにくいということもありました。このように、日本国内では海外のME部門の活動のようにスムーズに受け入れ難い環境でしたが、最近ではかなりその活動の意義が浸透してきたのではないかなと思います。
では、MEはメディカル戦略プランとは関係なく活動するのでしょうか?その答えは「No」です。製薬企業が新たに製品を市場に出す際には、実際のところ、医療従事者に対して様々な情報を提供しなくてはなりません。その情報とは主に製品情報です。メディカルアフェアーズにおいては、製品そのものの情報というよりはその疾患領域の情報がメインとなります。その疾患について医療従事者に正しく理解をしてもらうことが目的です。そのため、メディカルアフェアーズ部に属するMEチームは、当該疾患領域のトップのTL(Thought Leader)と折衝し、エビデンスに基づいた公平な資材を作成することも業務として行います。
一昔前はMEは「イベント屋」的な見られ方をされていたこともあったようですが、それは間違った解釈です。MEは教育ニーズを探り、そのニーズに答えていくための非常に意義のある専門業務であると思っています。
ⅰ)「ポジションペーパー:製薬企業のメディカルアフェアーズ部門が実施するメディカルエデュケーションの意義と実践」
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS, 52(8),649~656(2021)