2024.12.20 (Fri)

MSL活動における面談準備の重要性

MSLにとっての最も重要な業務のひとつとして挙げられるのが「社外医科学専門家(本コラムでは、STL (scientific thought leader) と呼称します)との面談」かと思います。MSLは複数のSTLと関係性を構築し、科学的に深い議論をして、インサイトを収集する必要があります。インサイトはメディカル戦略やメディカル活動の根幹になるものですので、MSLの面談はそれだけ重要であり、十分に準備をして臨むべきものです。本コラムでは、MSLが質の高い面談を行い、価値あるインサイトを収集するために、どのような準備をして臨むべきか考えてみたいと思います。

面談準備の項目

STL面談の準備は大きく①面談方法に関わること、②面談内容に関わること、③STLに関することの3つに分けることができます。①はSTL面談の計画とアポイントの取得に関わることが該当し、STLへの連絡方法や日程調整、面談形式の確認などが含まれます。また、社内ステークホルダーへの予定の共有も重要でしょう。私は面談準備で最も重要なのが②であると考えています。どのようなことを議論したいのか、そのための情報提供や資料作成などを面談の流れを考えながら準備を進めていきます。過去の面談内容からSTLの性格や興味を考え、それに合った議論内容になっているかも確認する必要があります。②を行うにあたり③のSTLに関することを調べることも大切です。学会活動や研究テーマを知ることを通じてSTLの考えを想像することで②の準備にも役立ちますし、面談中にその情報に触れることができれば関係構築にも役立つでしょう。特に初回面会時には時間をかけてしっかり準備したいポイントです。面談を適切に実行し、適切な情報提供と深い科学的議論をするためにこのような準備が必要です。

準備時間は有限

上記のような準備にしっかり時間をかけて面談に臨めば、それだけ面談の質は向上するでしょう。しかし、面談の頻度は担当STL数やMSLの活動方針に依存しますし、面談以外の内勤業務を行う必要のあるMSLもいるでしょうから、無限に準備に時間がかけられるわけではありません。多くの場合、MSL活動は単独ではなくチームで行っていると思いますので、チームメンバーと情報を共有し情報提供のネタやSTLの反応などを事前に把握しておくことで準備時間の短縮につながります。また、チームメンバーと情報を共有することで自分以外のMSLの面談内容・戦略を知ることができますし、チームで目線合わせをすることで一定の方向付けをすることができれば効率的な情報収集も可能になります。MSLは個人戦の側面が大きいですが、チームで戦うことでより効果的な活動にすることができます。

モチベーションを向上する

何のために時間をかけて準備するのかと言うともちろん良い議論をするためなのですが、それとは別に面談準備の大きな効果の一つに面談に対するモチベーションの向上が挙げられます。MSLとして、設定されたクリニカルクエスチョンに対するSTLの意見を聴取することを課されている方もいると思います。そのような活動を行うとき、STLそのものやSTLの考えに対する十分な興味を持たないままに面談に臨んでしまうと、聞きたいことだけを聞くアンケート調査のようになってしまいます。クリニカルクエスチョンを深く理解したうえで十分に準備をすることで、「この先生に意見を聞きたい。これについてどう考えているか聞いてみたい。」という熱意・興味を高めることができます。この状態になって初めてSTLとの良い議論の準備が整った状態と言えます。面談への熱意と相手への興味を高め、モチベーションを高める。これが面談準備の目的の一つであると言えます。

STLのメリットを考える

STLにとってMSLと面談するメリットは何でしょうか?最新の論文情報が得られる、薬の開発情報が聞ける、などのメリットがあるかもしれませんが、はたしてSTLはMSLとの面談に満足しているでしょうか。ただ意見を持っていかれるだけだと感じている医師も少なくないかもしれません。STLがメリットを感じていなければ、面談はMSLが意見をもらうだけの一方的なものになってしまいます。そのような状態ではSTLからの信頼を得ることは難しく、たとえ面談の時間をもらえたとしても本音の議論には発展しづらいでしょう。結果、メディカル戦略の基礎となるような重要なインサイトは得られない可能性が大きくなります。お互いがWin-Winになるような面談を行うことは大変難しいことですが、MSLは常にSTLのニーズを探り、STLにメリットを感じてもらえるよう努力をして、Win-Winになる面談を目指すべきだと思います。そのような面談を目指すためにも十分に準備をし、良い議論・良い情報提供をする必要があります。この視点は定期面談のサイクルの中では薄れがちになるかと思いますが、常に意識して準備し面談に臨むべきだと思います。

ライター

飯田智
シミック・イニジオ株式会社  メディカルアフェアーズカンパニー フィールドソリューション部 マネージャー
飯田智
大学院修了後、十数年にわたり国内外で生命科学系基礎研究に従事したのち、シミック・イニジオ株式会社に入社。以後、外資系、内資系の複数の企業においてMSLとして従事する。現在はMSL業務に加えてMSL研修やフィールドメディカル委託業務のプロジェクトマネジメント、フィールドメディカル活動のコンサルティング業務も担当している。
大学院修了後、十数年にわたり国内外で生命科学系基礎研究に従事したのち、シミック・イニジオ株式会社に入社。以後、外資系、内資系の複数の企業においてMSLとして従事する。現在はMSL業務に加えてMSL研修やフィールドメディカル委託業務のプロジェクトマネジメント、フィールドメディカル活動のコンサルティング業務も担当している。