2024.10.16 (Wed)

MA活動におけるSTLエンゲージメントの意義

メディカルアフェアーズ(MA)活動において、社外医科学専門家(本コラムでは、STL (scientific thought leader) と呼称します)との関係構築は、重要な位置を占めています。しかし、特段目的もなく最新情報を提供するだけでは、特にデジタル化が進んだ昨今においては、MA部員とSTLが、時間や労力をかけて関係を構築し、維持する意義は薄いでしょう。本コラムでは、MA活動における「STLエンゲージメント」の意義について、改めて考察します。

MAにおける「STLエンゲージメント」とは?

「顧客エンゲージメント」は、種々の専門家によって多くの表現で定義されていますが、いずれにせよ「顧客との関係構築」が重要な要素となります。MAにおける「STLエンゲージメント」においては、STLと①健全かつ良好な関係を構築すること、②最新の医学的・科学的な情報を交換すること、③課題の理解およびその解決に向けて協働すること、これらが重要な要素として含まれるでしょう。
MA活動は、メディカルプランに基づきますが、そこにはMAとして解決したい課題、達成したい目標があり、その解決・達成のための筋道が描かれます。具体的には、臨床的に価値のあるデータを創出する、疾患に関する情報を発信する、といった施策がとられます。そして、どの施策においても、重要な外部ステークホルダーたるSTLとの関係構築が必須となります。

欠かせないMSLとオフィスメディカルとの意思疎通

殆どのMAの組織において、メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)がSTLエンゲージメントに従事します。MSLは、メディカルプランをしっかりと理解し、STLと高度な医学的・科学的交流が出来る関係、さらには課題解決に向けて協働できる関係を構築することが求められます。MAがしっかりと成果を出すためには、MSLによる適切なSTLエンゲージメントが不可欠であることは、言うまでもないでしょう。
MSLは、社内へのインプットにおいても重要な役割を果たします。メディカルプランは、通常、「オフィスメディカル」によって作成されますが、オフィスメディカルは必ずしもSTLと密な接点があるわけではありません。オフィスメディカルが考えた課題設定は本質をとらえたものなのか、解決のための道筋や提案する解決策の妥当性は十分に高いのか、それらを適宜評価し、修正しながら活動を進めていくことになります。MSLは、STLを最も深く理解した立場として、オフィスメディカルに価値のあるインプットをすることが求められますし、それができるかどうかで、メディカル活動の質は大きく変わることになるでしょう。
効果的なSTLエンゲージメントを実施するためには、MSLとオフィスメディカルとの円滑かつ密な意思疎通が極めて重要になります。ただ、人と人との関係性ですので、課題が生じやすい箇所でもあります。実際弊社では、そのような課題を抱えたクライアント様に対して、オフィスメディカルとMSLとの相互理解を促し、生産的なアウトプットにつなげるための研修等を提供しています。

営業活動からの分離と差別化

最後に、営業活動からの分離と差別化について述べます。言うまでもなく、MSLは、販売促進活動に関与しない職種です(線引きは各社に委ねるところではありますが)。現在、殆ど全ての製薬企業において、MSLが面談をする際、営業部員(MR)の同席を許可していません。MSLによるSTLエンゲージメントと、MRによる顧客エンゲージメントは、物理的には分離している状態です。
中立的な立場で医学的・科学的交流を行うMSLと、主に製品情報を提供するMRとは、それらの活動の内容は異なるはずですが、現実はそう単純なものではないようです。実際、MSLも自社製品に関する試験の情報提供を実施します。一方、営業・マーケティング部門も、製品の情報だけ提供しても効果が薄いことは十分理解していますので、それ以外の活動をすることで医師との関係構築を図ります。その結果、両者の医師エンゲージメント活動に違いが見えにくくなるという現象が起こってきます(もちろん研究実施や資金提供に関することは、利益相反管理上、営業・マーケティングが携わることはありません)。そうなると、MRより数が少ないMSLの方が、活動のインパクトが低く映ってしまうでしょう。実際、医療関係者からは、MSLの顔が思い浮かべにくい、むしろ担当者が増えて煩わしい、といった声が出てきています。
MA活動も企業活動の一部であり、製品戦略との整合性が問われます。とは言え、その結果、両者の活動がSTLにとって同一なものに見えてしまうと、それはそれでMA活動の意義が問われます。多くの企業のMAで、そのような課題に直面していますが、やはりMAがその存在意義を示すためにも、STLにとっても価値がある関係構築および課題解決のための提案ができるかどうかが問われているように思われます。

ライター

越田 隆介
シミック・イニジオ株式会社 メディカルアフェアーズカンパニー メディカルソリューション部 マネージャー
越田 隆介
医師、医学博士。専門領域は糖尿病。大学教員を経て、当社に入社。製薬企業のメディカル部門でMSLおよびパブリケーション業務を経験。現在、患者と協働しながら、営利企業による”Patient-Centricity”を実践している。そのほか、医師との科学的議論に関する方法論や、臨床研究関連法規に関する解説など、製薬企業社員向けに研修コンテンツを提供している。
医師、医学博士。専門領域は糖尿病。大学教員を経て、当社に入社。製薬企業のメディカル部門でMSLおよびパブリケーション業務を経験。現在、患者と協働しながら、営利企業による”Patient-Centricity”を実践している。そのほか、医師との科学的議論に関する方法論や、臨床研究関連法規に関する解説など、製薬企業社員向けに研修コンテンツを提供している。