2024.08.07 (Wed)

メディカルアフェアーズ活動とSOPの意義

標準業務手順書(SOP)は、誰もがよく知るドキュメントだと思いますが、その重要性については対象となるメンバー間でも認識が異なるように思います。本コラムでは、SOPや活動マニュアルなどの位置づけについて紹介した上で、当該ドキュメントの作成およびメンテナンスの重要性を考えていきたいと思います。

企業の行動規範と手順書

企業の活動方針や行動規範は、様々な形で示されています。こうした企業の方針や規範の下で、規模の大きな企業や多様な業務を担う企業では、部門単位、あるいは部署単位で活動方針や行動規範を定められることもあります。こういった方針や規範を基にして、それぞれの業務ごとに手順書やマニュアルなど、言い方はいろいろありますが、口伝ではなくドキュメントの形になったものが存在しています。このようなドキュメントの目的は、業務で得られた知見の共有などの意味合いと、品質や信頼性が担当者によって変わらないようにするためのものとなります。

製薬企業の特性と規範

製薬企業は、「患者さんにクスリを届ける」ということでの責務は定まってはいるものの、それを遂行するための企業の活動方針や行動規範が、各企業の活動に独自性と特徴を生んでいます。さらに、製薬企業はクスリの開発から販売後の製品の安定した供給・流通、さらには実臨床における製品の真なる安全性、有効性を明らかにするための活動など、多種多様な業務が実施されていることから、業務手順やマニュアルを整備し、業務の継続性を担保していく必要があります。さらに、クスリという人体に対して直接影響を与えるものを製品として扱っている製薬企業の活動は、規制当局や関連団体、その他様々な法律や規制の中で規定されているものもあり、その活動を担保するためにも、手順書やマニュアルの作成は重要となります。こういった背景の中で、標準業務手順書(Standard Operating Procedures: 以下、SOP)を作成し、その中では、信頼性や確実性を高めるために確実に守られるべき事項をまとめています。

SOPの概要と意義

SOPは、当該業務の根本的な業務手順をまとめたもので、この手順に沿って業務を実施することで、実施者によって活動の中身や信頼性が変更されることが無いように作られています。治験においては、GCPによって作成が義務付けられており、製薬企業、CRO、医療機関のそれぞれにおいて、自身の業務手順をドキュメントの形で作成することになっています。また、しばしばメディカルアフェアーズが実施する市販後の臨床研究においても、臨床研究法 施行規則の中で、当該研究計画書に基づく臨床研究の実施に起因するものと疑われる疾病等が発生した場合の対応、モニタリング、監査(必要に応じて)に関する手順書の作成が義務付けられています。 また、日本製薬工業協会では、医療用医薬品等を用いた共同臨床研究に関する指針の中で、当該業務を適切に実施するために必要な措置として、手順書の作成を提示しています。このようにSOPの作成は、治験や臨床研究を実施していく上で必要なものとなります。また、多くの企業のメディカルアフェアーズの現状から考えても、臨床開発部門のように、常時治験の対応をしている状況ではなく、それほど高くない頻度で実施される臨床研究において、そのすべての手順を把握し、実施できる人材が、恒常的にいるかどうかも難しい状況ですから、SOPなどの形で、その手順や確実に守られるべき事項が言語化されていることは非常に重要となります。

SOPの作成と活用

SOPについては、法令や指針等でその作成が義務図けられていることがありますが、その記載方法や内容については、各企業において独自に作成をして良いことになっています。一部のSOPについては、治験実施計画時や臨床研究実施計画時に作成され、作成された手順書も、各種審査委員会での評価対象物とされています。また、企業活動における社内外監査においても、SOPに沿った活動に逸脱がなかったかという観点で行われることがあります。したがって、SOPには、信頼性や確実性を高めるために確実に守るべき事項を記載することになります。そのため、SOPのみでは、業務遂行に当たっての情報が不十分な場合があるため、SOPの下に、作業マニュアルあるいは作業要領(Work Instruction: WI)などが作成されます。そこでは、実際に業務に当たってのこれまでの知見を基にした最適化、効率化のためのノウハウなどが詰め込まれたものになります。

メディカルアフェアーズにおけるSOPの重要性

メディカルアフェアーズは、臨床研究の実施・支援に当たるエビデンスの創出から、主に医師を対象とした医療従事者への情報提供・交換のための対外活動を行うことになっています。その業務は多様なため、メディカルアフェアーズ活動を遂行するために必要となるSOPの数は、営業部門のそれに比べ多くなります。しかしながら、コンプライアンスを順守した上での、積極的かつ効率的なメディカルアフェアーズ業務を遂行していくためには、社内において経験や口伝による情報共有ではなく、SOPや業務マニュアルといったドキュメントとなった情報が重要で、メンバー間の対応のバラツキや業務の効率化に寄与していきます。さらにドキュメントの解釈についても社内で協議をしていくことで、課題を明確にした議論を遂行していくことが期待され、その結果、メンバー間の高いレベルでの理解度の平坦化、高質なメディカルアフェアーズ活動の遂行に繋がっていきます。一方で、作成したSOPや活動マニュアルは、定期的にメンテナンスを行わないと、関連する法規の変更など、社内外の環境変化との矛盾が生じることがあります。さらに、各種ドキュメントの作成のタイミングや業務内容によっては、記載方法や項目・立て付けの違いなどが発生し、手順書やマニュアルを実際に使うユーザーにとっては、使いにくいものとなることもしばしばあります。そのため手順書やマニュアルのメンテナンスは、非常に重要になりますが、思っている以上に労力を要するものになります。

最後に、SOPならびに業務マニュアル等の作成は、メディカルアフェアーズ活動を行う上で重要なドキュメントであり、活動するメンバーにとっても、自身の活動の拠り所となるものとなります。したがって、メディカルアフェアーズ活動に関連するSOPならびに業務マニュアル等整備は重要な項目になるでしょう。さらにこれらドキュメントはリビングドキュメントであり、本来であれば、常にメンテナンスをすべきものですが、少なくとも定期的な対応をすることで、メディカルアフェアーズ活動をするメンバーが、自身の活動に自信をもって対応できるようになると考えます。

臨床研究法施行規則 平成三十年二月二十八日 厚生労働省令第十七号
医療用医薬品等を用いた共同臨床研究に関する指針 2024年5月10日 日本製薬工業協会

ライター

藤田 亮介
シミック・イニジオ株式会社  メディカルアフェアーズカンパニー メディカルソリューション部 部長
藤田 亮介
製薬企業のメディカルアフェアーズ部門にて、疾患領域におけるメディカル戦略の策定及びKOL面談を含むメディカル活動に従事した。その後、メディカルアフェアーズ部門全体の業務戦略や海外を含めたメディカル戦略策定の基盤づくりを行った。 当社入社後は、ヘルスケア企業に対し、コンサルティングや研修などを包括的サービスを提供している。 特に、メディカル戦略策定のサポート、メディカルアフェアーズ組織の立ち上げ、各種導入・継続研修の提供、SOP/WIの策定、資材レビュー、ガイドラインへの対応などを担当。
製薬企業のメディカルアフェアーズ部門にて、疾患領域におけるメディカル戦略の策定及びKOL面談を含むメディカル活動に従事した。その後、メディカルアフェアーズ部門全体の業務戦略や海外を含めたメディカル戦略策定の基盤づくりを行った。 当社入社後は、ヘルスケア企業に対し、コンサルティングや研修などを包括的サービスを提供している。 特に、メディカル戦略策定のサポート、メディカルアフェアーズ組織の立ち上げ、各種導入・継続研修の提供、SOP/WIの策定、資材レビュー、ガイドラインへの対応などを担当。