2022.10.03 (Mon)

MSLコンピテンシーモデルの同定

製薬企業にコンサルティングを行う中で、自社のメディカルアフェアーズ部門のコンピテンシーを同定してほしいという依頼をいただくことがたびたびあります。このコンピテンシーとは何か、そして、なぜ企業はこのコンピテンシーに興味を持つのか、について触れます。

コンピテンシーとは何か

コンピテンシーモデル研究の第一人者であるSpencerらによれば、コンピテンシーとは「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」と定義されている。彼らによれば、「根源的特性」は個人の性格のかなり深い、永続的な部分を占め、かなり広い範囲の状況や職務タスクにおける行動を予見できるということを意味するⅰ)、とされている。

このコンピテンシーの概念を用いて、各企業が部門やチームなどにコンピテンシーモデルを作成し、人材育成に生かそうという取り組みが行われている。

このコンピテンシーモデルとは何かについてざっくりとではあるが下記にまとめる。

 

  1. コンピテンシーモデルとは、職務を遂行する上で必要なスキル・知識・行動特性を定量的に示すものである
  2. 効果的なパフォーマンスをするために何が必要かを明示し、それによって従業員の行動とスキルを全社的な戦略の方向性と連動させることができる
  3. 「コンピテンシー」とは、「その職務について有効な、または優れた業績をもたらす人の基本的特徴」を意味する
  4. 部署異動や中途採用面接の際にも非常に役立つ

育成が困難なコンピテンシーも存在する!?

図1に中核と表層のコンピテンシーを示す。

スキルや知識は、図に示すように個人の動因や特性の上に蓄積されている。この動因や特性はコンピテンシーの根幹を成すものでスキルや知識を身につけていくうえで非常に重要であると考えられている。それにも関わらず、これらはトレーニングによる育成が困難とされている。

育成が困難とされているコンピテンシー領域は、創造性と革新性、感情的知性、自己啓発、意思決定などである。これらの領域は、例えば会社で研修やOJTを与えてもなかなか身につかないということになる。このような知見を使って、企業はトレーニングでは身につけることが困難とされるこれらのコンピテンシーをすでに持っている人材を見極めて採用する。そして、その採用した人材に対して育成が可能と考えられるスキルや知識面のコンピテンシーを獲得させるため、それらを研修やOJTによって育成する。このような試みは実にリーズナブルな考え方であるといえる。ハイレベルかつバランスの良い人材を効率よく育成していこうということが企業の狙いである。

MSLのコンピテンシーとは

さて、我々がコンサルティングの依頼を受けるコンピテンシーモデルの作成の対象者は主にメディカルサイエンスリエゾン(MSL)である。MSLのコンピテンシーというと2015年にMSL SocietyでSurveyが行われた結果ⅱ)が良く知られている。また、Hyderによって発表されたMSL competency Indexⅲ)が知られている。サーベイで同定されたコンピテンシーをまとめたものを表1に示す。

MSLは非常に多くのコンピテンシーを求められる。サイエンス、医学知識、コミュニケーションスキルはもちろん、ビジネス的な洞察力、戦略的思考なども高いレベルで求められるのである。

一方で、各企業のMSL全員がこのようなコンピテンシーを十分に持ち合わせているかどうかについてたびたび質問を受けることがある。現状では各社それぞれレベルにばらつきがあるのは否めないであろう。例えば、「高い医科学的知識」とは博士号などを持つ人材がそれに相当すると思われるが、そのような人材は直近までアカデミアで研究に取り組んでいたという方々がほとんどであり、臨床研究についてはほとんど関わった経験がないことが多い。また、彼らに最初からビジネス洞察力も持っていることを期待するのは大変酷な話である。企業として、MSLの能力開発のどこに重きを置き、どこを育成していくのかを判断していくにあたりコンピテンシーモデルは一つの有用な指標となるのであろう。

どのようにMSLを効率よく育成するのか

人材を効率よく育成していくためにはどこに重点を置くべきなのだろうか?

我々のこれまでの経験からいくつかの知見が得られている。人材育成にはいわゆる座学のインプットのみでなくアウトプット、そして上長によるOJTを効果的に組み合わせて実施していくのが効率よく育成していくためのポイントとなる。さらには、同僚も含めた360度フィードバックを合わせて行うことは育成をさらに加速させるカギとなるであろう(図2)。また、中堅の社員の場合には育成計画立案には本人自身が関わり、それを決定していくことが大きな成果を生む。

上長によるOJTは部下の育成を加速するために極めて重要である

MSLと一言に言ってもコンピテンシーのばらつきは非常に大きい。したがって、上長によるOJTの「質」が部下の育成に大きな影響を与えることは言うまでもない。上長が部下のモチベーションを維持し、一つ一つの成果についてそれを認め、さらなる高みを目指すためのアドバイスを与えていく姿勢が必要である。つまりマネジャーの資質を高めることはチーム全体の士気を高めることにつながってくるのだ。マネジャーの育成については大きなコストをかけてでも継続していくことが望まれる。

 

今回は、コンピテンシーモデルの具体的な作成方法についての詳細は割愛します。
当社のコンサルティングにおいては、メディカルアフェアーズに特化した独自のコンピテンシーモデルを定義しています。現状のコンピテンシーを同定し各企業のビジョンや「あるべき姿」に合わせた育成計画をご提供していますので、詳細をお知りになりたい企業様はぜひ直接お問合せをいただければと思います。

ⅰ) Spencer,L. & Spencer, S. (1993).Competence at Work: Models for Superior Performance. New York: John Wiley & Sons, Inc.
ⅱ) MSL society global competency survey(2015), https://themsljournal.com/
ⅲ) Cherie Hyder, The MSL , Journal of the medical science liaison society, 2020, https://themsljournal.com/article/msl-competency-index-part-1-how-are-msls-chosen-evaluated-and-promoted/