2022.10.03 (Mon)

製薬企業のメディカルアフェアーズ部門の立ち上げにおけるコンサルティング経験

これまで、私たちは20社を超える製薬企業のメディカルアフェアーズ(MA)に対してコンサルティングを実施してきました(2022年10月時点)。各社からの依頼内容は様々でしたが、組織立ち上げに関するサポート業務が最も多くを占めました。新たな組織を立ち上げるにあたり、部門役割の明確化、目的、教育、そしてメディカル戦略プランの立案方法や実際に立案した戦略プランに対するアドバイスなど多岐にわたっていました。 今回はコンサルティングの実例や企業の取り組みについて紹介します。

MA組織の人材について

内資系製薬企業においては、MA部門の人材はMR(医薬情報担当者)出身者が大半を占め、次いで、学術出身者、開発出身者、研究所出身者の順であった。これに対し外資系製薬企業においては内資系製薬企業のそれとは異なり、MA部門のヘッドに医師免許を持つものを配置し、医学、薬学、生命科学分野などの博士号、修士号取得者や薬剤師免許を持っているものをMA人材とする傾向にあった。当社においては、博士号取得者を積極的に採用し製薬企業でMSLや内勤のオフィスメディカルとして働くために必要な一連の教育を与え、合格した者のみを製薬企業に派遣するといったサービスを開始したという経緯があった。

最近では、MA部門においては多様な人材をそろえるべきとの考え方がトレンドとなってきており、博士号取得者などに限らず様々な経験を持つ人材を揃えていこうという流れになってきている。

メディカル戦略プランについて

メディカル戦略プランに関しては、内資系と外資系製薬企業では考え方が大きく異なる。外資系製薬企業は標準化マーケティングの概念に則り、本国で立案した戦略を世界各国でも同じように用いるというのが一般的であった。そのため、国内の製薬日本法人においてもグローバルで立案された戦略をそのまま活用することが多かった。むしろ大きな戦略の変更は認めないという考え方である。一方、内資系企業においては日本が本社となるため、戦略は本国である日本で立案される。そのため、戦略の立案方法には両者で違いはないが内資系企業においてはその大元となる戦略を構築することになり、戦略立案における深い知識が必要になる。ごく最近では、日本の製薬企業においても世界各国に拠点を持っているため、日本以外の拠点で最初に戦略立案がなされるケースも増えてきている。

2017年当時、メディカル戦略プラン立案方法のアドバイスを中心としたコンサルティングの依頼がその大半を占めた。マーケティング戦略が存在する中、どのようにメディカル戦略プランを立案し、互いにシナジーを高めていくのか、といったところが大きなポイントであったと考える。メディカル戦略はUMN(Unmet Medical Needs)を同定し、その解決方法を立案し、実際の活動を実施するという流れになるが、重要なのはそのストーリーである。一見すぐに売り上げにつながらないような取り組みを行っているように見えてしまう場合もあるため、活動予算を承認するステークホルダーにはしっかりとしたロジックでその活動の意味を説明しなくてはならない。当社のメディカル戦略プランコンサルティングはこの点を重要視してきた。戦略はストーリーであり、そのストーリーは誰もが心動かされるものでなければならないと考えている。

製薬協もついにMA部門を意識し始める

2012年ごろから日本に存在する製薬企業もMA人材を急激に増員してきたが、内資系企業においては特に組織の役割を明確化する作業が急務であった。「何のためにMA部門を作るのか」という点について、当時どの製薬企業も明確なスタンスを持っていなかったのではないかと思われる。この点については今現在もその役割に完全に納得できていない企業も存在するのは事実ではある。しかしながら製薬協の指針ⅰ)などがあったように、各社がそこにリソースを投入し取り組んでいるのに自分たちだけがそれをしないのは問題がある、などの理由でその流れを受け入れざるを得なかったという背景もあるのであろう。

当社がコンサルティングを実施した製薬企業においては、この点を十分に理解し組織として最大のパフォーマンスを打ち出すべく日々の業務に向き合っていると確信する。

MA部門の評価とは

「MA部門の最大のパフォーマンスを打ち出す」と記載したが、どのようにMA部門の成果を評価すべきなのかということも当時のコンサルティングでは話題の中心の一つとなっていた。なぜならば、MA部門はコマーシャル部門のように売上に直接の責任を持たないため、KPI(Key Performance Index)をどのように設定すべきか、については様々な議論があったからである。

当時、日本よりも先行してMA部門を組織している海外のMA部門の評価方法を参考に、主に下記がKPI設定されていた。

 

  • KOL面談回数
  • 学会など情報収集件数
  • 提携先協議件数
  • TL(Thought Leader)選定およびエンゲージメントプランのタイムリーな作成および実施/管理
  • アドバイザリーボード等の実施
  • アサインされた活動をタイムリーに予算内で実施しているかどうか
  • 担当疾患における戦略的メディカルイベントの企画・実施
  • メディカルアフェアーズプラン作成への貢献
  • Fact/Insight収集数
  • 論文化数

 

上記はそのごく一例である。上記のほか、NPS(Net Promoter Score)を用いるようなケースもあった。

当社もこのような議論にコンサルタントとしても参加させていただいたことが多数あった。あくまでも私見ではあるが、上記のようなKPIの設定はMA部門の評価としてはあまりふさわしくないと考えていた。なぜならば、MA部門の活動は面談回数などでは評価できるものではない。MA/MSL個人としてではなく、MA部門またはチームとして、どのような成果を出せたのかを重視すべきであると考える。

我々が提案するMAの活動評価方法は、MA部門が打ち出した社会的インパクトを定量化して評価する方法である。この方法については社内機密であるためここでは詳細については割愛する。

今回、製薬企業のMA部門の立ち上げのコンサルティングに携わった経験のごく一部を紹介した。具体的な方法やケースについては各社との守秘義務があるため詳細については割愛する。

メディカルアフェアーズの活動は今後益々注目されていく

メディカルアフェアーズ部門の取り組みは今後もますます注目されていくものと思われる。なぜなら、昨今のCOVID-19に関わる医療課題の解決のために緊急承認されたワクチンや治療薬のケース、また、患者にいち早く届ける必要のある治療薬の先駆け承認制度などのように、政府は緊急の状況下において必要な医薬品をできるだけ早く市場に出すことを行っており、十分な安全性情報を持たない医薬品やリアルワールドでの利用経験の少ない医薬品などの情報を医療従事者に提供することやその製品の価値を高めることがメディカルアフェアーズ部門の重要な役割であるからだ。

近年、製薬企業は「Patient Centricity(患者中心の活動)」をスローガンとして掲げている。このスローガンを実行していくためにはメディカルアフェアーズの存在がカギとなるであろう。当社においても患者中心の活動を実現するため、製薬企業の外側から積極的に業界に貢献していく覚悟である。

ⅰ)製薬協ホームページ, https://www.jpma.or.jp/basis/mamsl/index.html